※眉かくしの霊・その2の続きエピソードです
【鏡花怪異譚】
大正13年発表。
宿の湯殿で不思議な体験をした境賛吉(さかいさんきち)。
宿の自室へ戻るとふわりと巴紋の提灯が境の座敷へ入り込む。
見ると、白鷺と見紛うなよやかな女が、座敷の鏡台に向かい化粧をしている。
女は、両眉を懐紙で隠しながら境をじっと見つめて言うのだった。
「―――似合いますか」
晩酌の相伴に訪れた料理人の伊作から語られた、因縁の物語。
昨年のちょうど今頃、雪降る夜半に一人で宿を訪れた柳橋の芸者・お艶(つや)。
境が泊まるこの座敷に滞在していたが、以来、宿で不可思議なことが度々起こるようになったのだという。
前後して語られるのは「奥様」と呼ばれる桔梗が池の女神の話。お艶は女神の姿を随分と気にしているようで――――。