【鏡花怪異譚】
明治34年発表。
幼い頃の「私」が体験した、不思議にて怖ろしいはなし。
八歳の頃に住んでいた越後の紙谷町(かみやまち)は八百家後家(はっぴゃくやごけ)と呼ばれる、女所帯の多い街であった。
親しくしている近所の娘、お辻(つじ)の家に泊まりに行く途中の「私」は、怪しげな婦人(おんな)が営む薬屋の前で躓いて転んでしまう。
擦りむいた膝に薬をつけてやろうと言う婦人を振り切って逃げたその夜。
お辻と床を並べて休もうとしたその時、どこからか漂う薬の匂い。
気づくと部屋の中には裸蝋燭(はだかろうそく)を手にした薬屋の婦人が、青い薬の小瓶を片手に立っていた。
婦人の愛人である美少年に恋心を抱いてしまった、お辻の命を取るためにやってきたのだという―――。
婦人の姿は生霊か、それとも「私」が見た悪夢か。