【鏡花怪異譚】明治28年発表
黒猫・その9の続きエピソード。
心を許した様子で髪結い・お島に膝枕し、髭を当たって(剃って)もらう秋山。
姉弟ならずも仲睦まじい二人はいかなる関係なのか。
二人は内縁でも夫婦でも、人目を忍ぶ間柄でもなく、性別を超えた信頼で結ばれていた。
秋山は裕福な生家があるものの、商いを継がせたい父兄に反発し、東京の美術学校を卒業した後は絵画の道を極めようとしていた。
生活のために絵を売る秋山の暮らしは苦しく、その日の食糧もままならない。
そんな秋山を見かねたお島が、援けを買って出たのである。
今では肉親以上に心隔てなくお島に接する秋山。 しかしひそかにお島は秋山への想いを秘めていた―――