龍潭譚・その9~ふるさと~
【鏡花怪異譚】明治29年発表。
龍潭譚その8・渡し船(わたしぶね)のつづきエピソード。
老人に伴われて沼を渡り、少年・千里(ちさと)は故郷へと帰ってくる。
家に戻った千里を待ち受けていたのは、嘗ては親しかった友人や親類縁者たちの奇異の目であった。
再会を焦がれた姉ですら、千里のことを神隠しに遭って気がふれてしまったものと思い込んでいる。
毎日周囲からののしられ、あざけられているうちに、千里自身も疑心暗鬼に陥ってしまう。
あの九つ谺(ここのつこだま)で逢った美女の許に逃げ出したいと
狂おしいまでに願うものの、思い空しく、千里は暗室に閉じ込められてしまうのだった―――