龍潭譚・その6〜五位鷺(ごいさぎ)〜

【鏡花怪異譚】明治29年発表。

龍潭譚その5・大沼(おおぬま)のつづきエピソード。

森の中で気を失ってしまった少年・千里(ちさと)。

涼しげな香りに目を覚ますと、柔らかな蒲団の上に身体を横たえているのだった。

頭をあげて見渡すと、庭の先には、青々と濡れたように草の生い茂る山懐が広がっている。

滑らかに苔むした巌角(いわかど)に浮かび上がる、一挺の裸ろうそくの火影。

筧(かけい)から湧き上がるように零れ落ちる水をたらいに受け、一糸まとわぬ美女が向こう向きに水浴をしている。

山から吹き下ろす風にちらちらと揺れる火影に映ろう雪の膚(はだえ)。

千里の気配に気づいて立ち上がろうとした美女のふくらはぎをかすめて飛ぶ、真っ白い五位鷺。

悠然と千里のもとに歩み来た美女は、千里が夕暮れ時に追いかけて殺したのは毒虫だったこと、

その毒に触れたせいで顔が変わってしまい、迎えに来た姉が千里に気づかずに去ってしまったことを告げるのだった――――。

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