幻想怪異譚

幻想怪異譚

龍潭譚・その7〜九つ谺(こだま)〜

【鏡花怪異譚】明治29年発表。 龍潭その6・五位鷺(ごいさぎ)のつづきエピソード。 水浴びから上がった美女は、千里に添い寝しながらいくつかの物語を語る。 やがて二人が居るこの場所が「九つ谺(こだま)」と呼ばれることを千里に伝えた美女は、自らの乳房を千里に含ませて眠りへと誘うのだった。 まどろんでいるところへ天井上、屋の棟あたりから凄まじい物音。美女が毅然と音の主を諌めると、音は次第に静まっていった。 それでも恐ろしさに震える千里に美女は、蒔絵箱から守刀を取り出して見せるのだったーーー。
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龍潭譚・その6〜五位鷺(ごいさぎ)〜

龍潭譚その5・大沼(おおぬま)のつづきエピソード。 森の中で気を失ってしまった少年・千里(ちさと)。 涼しげな香りに目を覚ますと、柔らかな蒲団の上に身体を横たえているのだった。 頭をあげて見渡すと、庭の先には、青々と濡れたように草の生い茂る山懐が広がっている。 滑らかに苔むした巌角(いわかど)に浮かび上がる、一挺の裸ろうそくの火影。 筧(かけい)から湧き上がるように零れ落ちる水をたらいに受け、一糸まとわぬ美女が向こう向きに水浴をしている。 山から吹き下ろす風にちらちらと揺れる火影に映ろう雪の膚(はだえ)。 千里の気配に気づいて立ち上がろうとした美女のふくらはぎをかすめて飛ぶ、真っ白い五位鷺。 悠然と千里のもとに歩み来た美女は、千里が夕暮れ時に追いかけて殺したのは毒虫だったこと、 その毒に触れたせいで顔が変わってしまい、迎えに来た姉が千里に気づかずに去ってしまったことを告げるのだった――――。
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龍潭譚・その5〜大沼(おおぬま)~

龍潭譚その4・あふ魔が時のつづきエピソード。 黄昏時に現れる魔物から逃れるように、社の片隅に逃げ込んだ少年•千里。 そこへ、千里を探す姉と爺やの会話が聞こえて来るのだった。出掛けにいつも行う魔除けのまじないを、今日に限ってしてやらなかった事を悔やむ姉。 姉への恋しさに耐えかねて表へ飛び出した千里。千里を見つけた姉はすぐに手を差し伸べるが、その顔を見た途端「人違い」と告げて去ってしまう。千里は水面に映る自分の顔が別人の如き相貌に変わっている事に気づき、慄くのだった。 絶望感に苛まれながら姉の背中を追いかけて無我夢中で走り回るうちに、木々に囲まれた森の中の大沼にたどり着いた千里は、そのまま倒れ込んで気を失ってしまうーー
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龍潭譚・その4~あふ魔が時(おうまがとき)~

【鏡花怪異譚】明治29年発表。 龍潭譚その3・かくれあそびのつづきエピソード。 夕闇の古社にあらわれた美しく謎めいた女性。 目くばせされるままに暗がりの片隅へと歩み入ったところで、千里は「黄昏時の暗い片隅には魔物が棲むゆえに近寄ってはならない」という姉の教えを思い出して背筋を凍らせる。 左手にある坂道の底からは闇のような瘴気が立ち上るよう。恐ろしさに身を震わせながら狭い社の中に逃げ込むと、冥界から遣わされた獣が社を横切る気配がする。 魔物から守るために女性が千里を暗がりへと導いたか、と思いを巡らせているところへ聞こえてきたのは、千里を探す使用人たちの声。人か魔か判じることが出来ないままやり過ごしていると、悲しげに千里の名前を呼ぶ、恋しい姉の声が―――
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龍潭譚(りゅうたんだん)・その3〜かくれあそび〜

龍潭譚その2・鎮守の社(やしろ)のつづき。夕暮れ時にたどり着いた神社の境内では、千里(ちさと)と同じ年頃の子供たちがかくれあそびをしている。「かたい」と呼ばれるこの集落の子供たちと千里とは普段は交流することはない。しかし人恋しさと安堵から、千里は請われるままにかくれあそびの輪に加わる。隠れる者を探す鬼役となった千里が顔を覆って待っていると、いつしか人の気配は消え、滝の音と木々を揺らす風の音がするばかり。黄昏の境内に千里はひとり取り残されてしまう。途方に暮れていると、いつの間にか傍らに美しい女性が微笑んで立っているのだった―――
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龍潭譚(りゅうたんだん)・その2〜鎮守の社(ちんじゅのやしろ)〜

龍潭譚・その1~躑躅(つつじ)か丘~のつづき。躑躅の迷路に囚われてしまった少年・千里。見渡す限りに咲き乱れる赤躑躅から逃れるため、大波のように起伏する坂道を走り回るが、出口が見つからない―――。
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龍潭譚(りゅうたんだん)・その1~躑躅か丘(つつじかおか~)~

明治29年発表。 少年・千里は優しい姉の言いつけを肯(き)かずに、こっそりと家を出て遊びに行く。 燃え盛るように赤い躑躅の繁みへと足を踏み入れると、五色にきらめく美しい「毒虫」が千里の顔をかすめる。 毒虫退治に夢中になり躑躅の迷路を駆け回っているうちに、千里の視界は赤い躑躅ばかりに塞がれて、自分がどこから来たのか、どこへ行けばよいのか道に迷ってしまう―――。
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妙の宮(たえ の みや)

明治28年発表。 「妙の宮」と呼ばれる山中の社に夜遅く肝試しに訪れた、美しい少年士官。空まで続くような石段を登る半ばで、懐の金時計が鎖だけ残して消えていることに気づく。
大正期発表作品

人魚の祠【後編】(にんぎょ の ほこら)

人魚の祠【前編】のつづき。 桃源郷のごとく幻想的な沼辺で、工学士が目にした風景。 靄に包まれた中に現れたのは釣りをする三人の美女の姿だった。
大正期発表作品

人魚の祠【前編】(にんぎょ の ほこら)

大正5年発表。 「私」と友人の工学士が出席した茶話会の会場には、名も知れぬ真っ白い花が咲き乱れ、濃く甘い香りがあたりを包み込んでいる。 帰りの電車で同じ花の香りを纏った女性と乗り合わせた途端に、工学士の顔色がさっと変わるのだった――。